東京地方裁判所 昭和38年(レ)77号・昭36年(レ)156号 判決
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〔事実と判断〕訴外橋本ツムが昭和二三年頃渋谷区永住町五〇番の所有宅地を分譲して、被控訴人はその一区画を買い受けたものであるが、右分譲に際しては、各区画間は通路を設け、分譲地取得者のためそれぞれ通行地役権が設定された。本件土地もかようにして通行地役権が設定された通路の一つであつたが、それが未登記のままであつたところ、本件土地は橋本ツムから株式会社木下商店、松島健寿、控訴人が昭和二七年八月八日所有権取得登記を完了して、昭和三三年一月二六日頃および同年三月四日頃の二回にわたり、本件土地に高さ六尺の板塀を設置して通行を遮断してしまつた。そのため被控訴人所有の土地は、公路に通ずる経路が西南隅から巾約一・五米、約三〇度の傾斜のある石段のみとなり、居住のため利用するには甚だ不十分で、いわゆる準袋地となつてしまつた。被控訴人は、本件土地につき通行地役権または囲繞地通行権あることを前提として、本件土地の通行の妨害排除を求めた。
判決は、被控訴人が控訴人に対抗し得る通行地役権を有することを否定したが、本件土地につき囲繞地通行権あることを認め、かつ本件土地が板塀設置のため被控訴人所有地に接する部分では約二米の巾員があるのに隣接する控訴人所有地に接する部分になつて急に巾員が一・三米に狭められていることを認定したうえで、右囲繞地通行権の及ぶ範囲について次のように判示している。曰く、
「しかしながら、もともと囲繞地通行権は袋地の利用のため、囲繞地の利用を制限するものであるから、その範囲は袋地利用に必要でかつ囲繞地のため最も損害の少い限度で認められるに過ぎず、このことは民法二一一条の明定するところでもある。そして右の限度は結局社会通常の観念に照し、附近の地理状況、相隣地利用者の利害得失、その他諸般の事情を斟酌した上、具体的事例に応じて判断すべきものと解されるが、本件の場合、被控訴人所有地は住宅地であつて他の特段の利用状況は認められないから、囲繞地通行権も被控訴人の日常生活に支障を生じないと思われる程度をもつて必要かつ十分と認められるところ、被控訴人所有地には一応その西南隅に公路に通ずる前記階段が設けられていることを考えると、被控訴人所有地の利用のため即ち被控訴人の日常社会生活上の必要を満すためには、本件土地のうち現に通行可能な別紙目録記載の土地部分を通路として使用すれば足りると認められること、並びにこのため生ずる被控訴人の前記不便は、単なる利便の問題であつて必要の問題とは認め難いことに照すと、本件土地のうち今後被控訴人が通行し得る範囲は別紙目録(二)記載の土地部分のみに限るのが相当であると認められる。尤も従前は被控訴人が本件土地全部を通行のために使用し続けて来たにも拘わらず突如控訴人が右板塀を設置した事情を考えると、被控訴人としては同目録(二)記載の土地のみを通行のため使用し得ると言うのでは、充分満足し得るとは言えないであろうけれども、本来右板塀は控訴人が本件土地の所有権者として設置したものであり、その行為自体を違法と言うことはできず、寧ろ、これによつて以後相隣地使用関係に事情の変更があつたと認めるのが相当であるから、通行の範囲も変更後の新たな事情に基づいて認定するのが相当であり、この場合、前示のとおり被控訴人にその必要が認められない以上、右板塀設置後は、従前の事情のみを理由にこれを取毀してまで被控訴人に対して本件土地全部の通行を認めるのは、民法二一一条の趣旨に照して相当でないと思われる。」